バングラデシュ。
あなたはどんなイメージを持っていますか?
昔、バングラデシュは”アジア最貧国”とも言われるほど、貧しい国でした。
最近は、洋裁の仕事やITエンジニアなど、少しずつ経済が発展してきているイメージを持っている人もいるのではないでしょうか?
今日は日本の私たちの暮らしが、彼らとどう繋がっていて、何が起きているのかを知ることができるお話をします。
財布やカバンや革靴など、日本や先進国で使われるレザー商品。
革製品を大量に生産しているバングラデシュに住む人のお話を通して、知ってもらいます。
革をつくるジャハくんの毎日とは?
17歳のジャハ(仮名)くん。
毎日 朝6時にかたい木造の床から起きると、下の弟たちを起こしたあと、兄弟やお父さんと近くの川へ向かい、顔を洗ったり歯磨きを済ませます。
川は、近くに住む村人たちのゴミや、牛たちの糞尿が混じっていて、茶色にも灰色にも見える色に濁っています。
「今日もほんとにディーゼルくさいなあ」
とジャハくん。
川の水は、近くの工場から垂れ流しになっている汚水が混じっているため、重油や軽油の匂いもするのです。
しかし、長年川の匂いをかいでいるお父さんは、もう慣れてしまっているため、異臭の感覚は鈍くなっています。
周りをよく見ると、黄色い目をしたおじいさん。
皮膚がただれ、咳込んでいるおばさん。
肌は青白く、爪が真っ黒になっているおじさんも。
皮膚病・呼吸器系の疾患・下痢・肝炎などを発症している人や、手や足の一部を工場の機械で誤って切断してしまった人が、この川の近くにはたくさんいるのです。
朝の支度を終わらせたジャハくんは、お父さんと一緒に、仕事場の革製品をつくるためのなめし工場へ行きます。
私たちが生活で目にするレザー商品は、牛などから剥いだ「原皮」が腐らないように塩漬けや乾燥処理等を行い、さらに硬くならないよう強度やしなやかさを加えて、いわゆる「革」になります。
この工程が鞣し(なめし)作業です。
ジャハくんは工場に歩き着くと、家から出かけた時の服のまま着替えずに、素手・裸足のまま作業に取り掛かっていきます。
工場によっては、作業着へ着替え、手袋やサンダルをして、仕事ができるところもありますが、ジャハくんのような工場も珍しくありません。
作業は、まず動物の皮を酸性の溶液に浸すところから始まります。
酸性になった皮にクロムなめし剤と呼ばれるものを浸透させます。
その後、含んでいる余分な水を絞り出します。
余分な水が絞りだされた革を、最後に色付けしていきます。
思春期の子どもの労働時間の上限は5時間という決まりはあるものの、こういった作業を一日12時間から14時間も続けます。
この作業の工程で、ジャハくんは、炭酸ガス・酸・鉄・塩化物・ナトリウムなどが入った薬品に触れるため、一日の仕事の終わりには、石けんを使って全身をくまなく洗います。
もちろん、この工場でも、使われた薬品や有害廃棄物が近くの川に垂れ流しになり、水質汚染に繋がっています。
ジャハくんとお父さんが家に帰ると、弟たちが朝とった魚やエビを、日中に市場へ売りに向かい、そのお金で買ってきた野菜などを使い、お母さんが料理をしてくれているところでした。
ディーゼルのような匂いがしていた川の水ですが、彼らの生活水でもあり、その川から魚やエビを獲り、火を通して料理となり彼らの食卓に日々並ぶのです。
ジャハくんや弟は、幼いころから家族で1食も食べられない日もあり、お父さんが仕事を頑張り、お母さんは家事やみんなの世話をして、2人で家庭を守ろうとしているのを見てきていました。
だから、たまに学校を休んでは、魚を獲ったり仕事をせざるを得ませんでした。
バングラデシュの革とつながる日本
ハザーリバーグ地区にあるこのブリリンガ川は、実際に2013年に発表した「世界で最も汚染された地域」のトップ10中5位に選ばれていて *1、近くに住む住民は18万人近くもいます。*2
バングラデシュの皮革産業は、2017年には年間1300億円の市場にものぼっています。*3
皮革産業は衣料・縫製産業に次ぐバングラデシュ第2の産業でもあり、150近くの工場があり、2012年時点で1万5千人もの人が労働していました。*4
ジャハくんのような子どもがいる皮革工場は多く存在するため、皮革産業に関わっている子どもの数も多く、若い場合には11歳の子どももいます。
バングラデシュの皮革製品のうち日本への輸出は、2016年には40億円にもなっています。*3
そのため、私たちが日頃から手にしているバッグ・革靴・ベルト・財布などのレザー製品も、バングラデシュ製のものが少なくありません。
あなたがもし革製品を持っていたら、「Made in Bangladesh」と書かれていないか、ぜひ一度見てみてください。
ジャハくんをはじめ、バングラデシュの子どもや大人の健康被害、貧困、児童労働、子どもたちの学習機会がないがしろにされた上で、皮革産業が成り立っています。
もっと言うと、私たちは彼らの犠牲の上で、レザー商品を手に入れています。
想像してください。
毒物に触れながら、作業をする男性たちを。
学校へ通うはずの年齢の子どもが、工場にいる姿を。
工場から汚水が垂れ流された河川を。
川の水で洗濯や洗い物をし、魚を獲っている男の子を。
ジャハくんがもしも日本に産まれていたなら、本来は毎日学校へ通っていることでしょう。
放課後は友達と遊んだり、部活をしたり、経済的に余裕がある家庭であれば、塾や習い事をしている子もいるでしょう。
皮革産業の問題構造とは
彼らの労働環境や、健康被害、貧しさは、なぜ起きているのでしょうか?
バングラデシュに住む彼ら自身も、これまで何度も声を挙げてきました。
工場を住宅から離れた地へ移転することや、浄化処理施設の建設や、工場での低賃金に対する要望などは出ていますが、数十年間大きく改善されていません。
そのため、本当は仕事より勉強を優先されるべき子どもが、たくさんの工場で作業をせざるを得ない状況で、これが数十年間にわたっているだけでなく、今も続いています。
では私たちには原因はないのでしょうか?
1つ目の問題点は、革製品をつくる日本など先進国の企業が低い価格で仕入れることで利益を求めることです。
そうすることによって、バングラデシュの工場の経営者たちは、子どもたちが仕方なく働き手になることや、大人でさえ低賃金での労働、さらには、浄化処理施設の設置や工場の移転など、どれだけ問題に気付いていても、改善方法を分かっていても、経営のため変えることができないのです。
他にも、企業によっては、中間業者が多く存在し、生産国や作り手の状況を知らない、または事実とは違う報告が上がっているという事さえもあるのです。
もう1つの問題点は、私たち市民もこういった問題を知らずに、革製品を買っていることです。
最近では社会にやさしい商品をつくる会社も多く誕生していて、バングラデシュの児童労働に関与していないレザー商品を買うこと(ビジネスレザーファクトリー、マザーハウス等)もできます。
つまり「私たちの商品の選択を変える」ことで、バングラデシュの人たちを搾取しない商品の需要が増え、問題が起きている工場が減ったり、類似する社会にやさしい会社が進出することで、健全な工場が増えていくでしょう。
こういった問題が話題に上がると、不買運動をしたり、代替商品を購入、つまり革製品でいうとビーガンレザー商品の購入をしよう(アップルレザー、パイナップルレザー等)とする人もいます。
たしかに、なめし作業に関わる人を減らすことには繋がります。
しかし、彼らの働き口自体をも減らし兼ねず、経済発展を遅めてしまうかもしれませんし、ビーガンレザーの生産国は南米や中国にも多いので、雇用が減ることで彼らは貧困から抜け出しにくくなってしまう可能性もあります。
革をつくる子どもの未来を変えるカギ
ジャハくんのような子どもたちが、私たちと同じように、自分で人生を選択していけるようになるためには、私たちに何ができるでしょうか?
いま苦境にいる子どもたちの人生を変える、つまり、「学びの機会を充分に届け、貧困から抜け出せるようにする」アプローチは有効です。
今日は、皮革工場にまつわる子どもの話をしましたが、
- 温暖化による河川増水で、家や仕事を奪われる家庭
- 死と隣り合わせで、船舶解体の仕事をせざるを得ない男の子
- 縫製工場で日中働かざるを得ない貧しい女の子
- 勉強や仕事より、結婚や家事を優先される女の子
- 経済的困窮から家を出て、家事使用人として住み込み稼ぐ女の子
など、バングラデシュには未だたくさんの子どものケースがあります。
あるNGOでは、充分に学校に通えない、学校に行けても先生が足りてない、満足に勉強できないなど、それぞれの子どもたちの状況に合わせて、無償または少額で教育支援をすることで、進学や大学合格、もっと言うと、その先の仕事の選択肢を広げています。
教育支援を行うNGOは色々と存在しますが、この認定NPO法人e-Educationという団体は、
教科書の配布数を増やしても、生徒の成績は上がらない
習熟度別のクラス編成は、全生徒の成績を上げる
など、これまでの他の教育支援団体の失敗事例や、成功事例を踏まえた教育モデルを届けているとのことです。
具体的には、映像教材が入ったアプリケーションやタブレットを支給することで、生徒たちは好きな時間に、好きな場所で、どの授業でも、何度でも、勉強することができるようにしています。
また、勉強すればするほど、復習テストをすればするほど、自分は「何の科目の、何の単元が苦手なのか」「どこの学校へ進学するためには今の進捗はどうなのか」なども表示され、オススメの勉強コンテンツも出てくるため、生徒一人ひとりの成績が効率的に上がるようになっています。
補講授業の開催や、元々貧しい家庭から良い大学へ進学できた卒業生などからの講話も定期的に開催されているため、モチベーションを維持しながら、勉強ができるのです。
さらに、大学生のチューターが1人つき、生活や進路に関する相談や、学習の計画を一緒にしてくれるため、進学するところまで、頑張り切れるようになっているとのことです。
学校を建設したり、本を届けるといった教育支援でよく耳にする活動ではないですが、10年以上の活動で25,000人以上の子どもたちへ学びのチャンスをつくってきた実績があり*5、勉強を届けているだけでなく、貧困家庭から良い大学へ進学するなど、具体的な成果につながっているそうです。
また、映像教材はプラットフォームでの配信も行っているため規模が大きく、映像教材のみの視聴であれば1年に50万人以上の人々に見てもらっているとのことです。*5
環境問題や経済的困窮、教育機会の格差などの社会課題は、国や行政だけで解決することは困難です。
また、環境・貧困・教育のような社会の根底的な問題を変えていくためには、長期的な目線で事業を進めることが必要なため、継続寄付のように長期的に安定したサポートがあることが大事です。
認定NPO法人e-Educationでは、毎月1,000円からのマンスリーサポーターという少額から活動を支えて下さる方を募集されています。
”寄付”は自分が直接的に実行できないことを、非営利団体等を通して社会を変えていくという参画の仕方です。
バングラデシュの子どもたちにも、サポーターの存在が伝わっていて、彼らの心強い支えにもなっているそうです。
実際に、大学へ進学した後には
- 今度は自分がチューターになった
- 在学中に難民支援の活動を始めた
- 親に仕送りしている
- 出稼ぎに行っていた父を呼び戻した
- 銀行員に就職した
- 実家の家を建て直した
- 国連の関連組織に就職している
など、他者へ貢献するようになった人や、困窮していた人生が180度変わった人も多くいるとのことです。
この支援によって、貧困をはじめとした苦境にさいなまされている子どもたちへ、教育機会を届けることで、学びの場だけでなくヒトの想いやりを受けとった彼らが、貧困から抜け出すだけでなく自らの力で人生を変えていけるようになるのです。
今日お話したレザー商品に関わらず、私たちが地球上に住む限り、直接的な当事者でなくても、何も関与していないという事はほとんどありません。
私たち一人ひとりが、ジブンゴトとして考え、行動を変えてみることによってより良い社会になります。
あなたが画面の前にいるこの時も、バングラデシュのどこかで皮革工場で過酷な労働をせざるを得ずに、健康や学びを奪われている子どもがいます。
あなたの消費の仕方や、あなたの寄付で、バングラデシュの人々の未来を変えることができます。
今日は、「レザー商品とバングラデシュの人々のつながり」について、課題や出来ることについて紹介しました。
ジャハくんのおはなしを通して、日常に少しでも疑問を感じたら何かを始めるいいきっかけかもしれません。
国や行政で変えられなかったことも、市民の力があれば、世の中は少しずつ変わっていく事ができると私は信じています。
地球上に暮らす同じ人々のために、みんなが幸せになれるように、1つ行動をしてみませんか?
*1:ブラックスミス研究所のデータ *2:AP通信の記事 *3:輸出振興庁およびバングラデシュ中央銀行のデータ *4:ヒューマン・ライツ・ウォッチの記事 *5:認定NPO法人e-Educationの記事
※プライバシー保護のため、複数のお話を元にジャハくんのストーリーを再構成しています。
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